【映画】Once upon na time in Hollywood(ネタバレ有)※歴史的背景ほぼ無知

タランティーノ作品にハマり中なので、これは見ておかねば!とかなり楽しみにしていた作品。

 

映画館で観ようかかなり迷ったんですけど、その時はタランティーノといえば作品によってかなり好みが分かれるだろうなと思い、怖気づいてしまって結局レンタルされるまで見送ることにしました。

あとイングロリアス・バスターズみたいなバイオレンス色の強い作品だと映画館の大画面で観るのは辛いなーと思いまして。あの映画、一度観ただけなのですが、当時は結構トラウマレベルで怖かった記憶が強くて。。。もう一度リベンジしようとは思っているのですが。

 

という経緯もあるのとDEATH PROOFでタランティーノ熱が湧いてきたこともあり、

満を持して観た訳ですが・・・。

 

正直パルプフィクションやレザボアドッグスやDEATH PROOFの方が好みでした。

以下、細かい感想です。

 

①鑑賞後の疎外感の正体

まず、この映画はシャロン・テート事件とその背景となるヒッピー文化やハリウッドの歴史を知らないと面白さが半減してしまう作品です。

上記はネットで散々言われていたことでしたが、正直、「いやいや、言うてもシャロン・テートがカルト集団に殺されたってことだけ知っていれば大丈夫っしょ!」と半分しか真に受けていませんでした。

ですが!本当、先人達の言うことは素直に聞いておくべきですね・・・。

全くその通りでしたよ。想像以上に!!

どれくらい熟知しておくべきかというと、少なくともシャロン・テート事件に関わった人物達の経歴や生い立ち、思想、事件の惨状(どれだけメッタ刺しにされたか等)まで具体的に知っておくべきです。

そうでないと、エンディングでポカーンとしてしまい、もれなく消化不良と疎外感を味わうことになります。まさに自分がそうでしたから間違いありません。。。

 

というのも、この作品はタランティーノによる悪しきハリウッドの歴史や慣習の是正の物語なんですよね。

シャロン・テート事件は、ヒッピー文化を衰退させ、当時のハリウッドのトレンドにまで影響を及ぼすほど衝撃的な事件だった(らしい)。また、被害者本人だけでなく、夫であったロマン・ポランスキーへのいわれのない誹謗中傷だけでなく、無関係だったブルース・リーにまで容疑がかけられる始末。監督は事件後に作風が変わったと言います。

そのようなハリウッドの負の歴史を改変させることで、映画や演技に対して真摯に向き合う純粋な映画人であった彼らを救済し、それは架空の人物として描かれている俳優のリックをも救う。そうすることで、現代の純粋に良い映画を作りたい!という映画人達に対してリスペクトの意を表しているのだと思います。

それだけではありません。劇中、クリフが性交渉を仄めかすヒッピーの少女に対し、18歳以上か証明するよう迫ります。これ、すごく不自然ですよね。というのも、この時代にそんなことしていた人、誰もいなかったと思うんですよ。ここにも監督の悪しき慣習を是正したいという願望が込められており、明らかに昨今の三―トゥー運動を意識してのことだと推測されます。監督はあのワインスタインと懇意に、彼のセクハラ行為を黙認していたものの、その時の自分を後悔している旨の発言をしているようですし。

 

その他にも、往年のスターだったと思われる人物や映画が多数出てきており、当時のハリウッドを再現するという監督の趣味全開なのですが、これも知識がないとなんのこっちゃ!と言う感じで置いてけぼりにされます。リックが大脱走のカメラテストをするシーン(当時の映像との合成)なんて別に重要でもないのに結構な尺取ってますから、完全に監督の趣味ですよね。純粋に当時を再現することを楽しんでいる様子が伺えます。

 

が!そんなのハリウッド通でもない限り知らないしテンション上がらないですよ~~!!単に勉強不足な自分への言い訳ですが、ここまで事前知識を必要とする映画って初めてですし、ちょっと不満に思っちゃいますよ・・・。

せめて予習することを告知して欲しかったですね。「知っていた方が楽しめる」レベルではなく、「必ず調べておいてください!」レベルで。

 

という訳で人によっては(というか恐らく大多数の人)消化不良と疎外感を大いに味わうことになります笑

 

②実在の人物と架空の人物の交錯は果たして上手くいったのか

 

 まず架空の人物であるリックとクリフについて見てみましょう。

まずリック。彼は100点満点に近いくらい魅力的なキャラだと思いました。

架空なのに実在していそうだと思わせるくらい、人間味溢れるキャラだったと思います。彼はハリウッドでキャリアを重ねる俳優を体現させたからだと推測できます。浮き沈みのある俳優達を間近で見てきた監督の観察眼はさすがだなと思わせられます。

特にお気に入りのシーンは、セリフが上手く言えずにトレーラーに籠って暴れ狂うシーン。前の晩飲んだ酒の量を後悔するセリフ(3~4杯で止めておけば良かったのに8杯も飲んじまった!)は秀逸です。誰でも経験してそうなことなので親近感を覚えるんですよね。こういうセリフ回しは本当に上手い監督です。言わずもがな、ディカプリオの演技も良い。演技の良し悪しを判断する能力は自分にはありませんが、このシーンの彼は本当にリックだったと感じました。

その他、序盤で自分にキャリアを悲観しクリフの前で泣き出すシーンも秀逸。この短いシーンでリックの人柄とクリフとの関係性が的確に描写されています。

 

 

次にクリフ。彼はこの作品において言わば歴史の是正請負人。未成年淫行の阻止とヒッピーの虐殺が彼の最大の任務でしょう。そのせいか、人間味がなく架空のキャラの域を超えない不自然な人物のように感じました。ブルースリーを華麗に倒したり、ヒッピーを華麗に虐殺したり、長年連れ添ったリックに解雇されても動じない。まさにスーパーマンの如くある意味完璧な人物なんですけど、「こんな人いないよな」とどこかで感じてしまうキャラ。リックが人間味溢れるキャラで良い味出しているだけに、少しもったいないように感じました。

 

 

余談ですが、監督のお気に入り女優(と思われる)ゾーイ・ベルカート・ラッセルが夫婦役でニヤリとしてしまいました。こういう人多いと思いますが・・・。

あのDEATH PROOFで殺し合った仲の二人が夫婦役って面白すぎる笑

 

 

次は実在のキャラ達。正直、シャロン・テートを始め、彼らには全く興味が沸いてこないんですよね・・・。というのもキャラが多すぎる!あと内面の描写が少なすぎて共感いない。君たち、彼らのこと知ってるから詳しいことは省いていいよね?って感じが伝わってきます。シャロンは他のキャラに比べれば描写は多いですが、彼女の良いところばかり意図的に見せられている気がして釈然としないんですよね。

まぁ、この作品における彼女の役目は「純粋な映画人」「悲劇のヒロイン(史実上では」ですから、これくらいの描写で良いのでしょうが、それが逆にキャラとしての魅力半減させていると思うんですよねぇ。出番の多さの割には印象に残らなかったです。

であるが故なのか、史実に反して助かっても特に感動がないんですよね。史実に詳しくことが大きな原因だと思いますが、それに加え、劇中の彼女の魅力のなさも一役買っている気がします。

 

 

最後にヒッピー達。何気にダコタ・ファニングが出てましたが最初分からなかったです。それくらい全く華がなかった。。。良いのか悪いのか・・・。

さて、ヒッピー集団は今作において非常に重要な役割を担っています。彼らを成敗することが今作の最大ミッションですから。ですが、史実をほぼ知らない人間にとっては、不親切なくらい描写が曖昧で少なく、エンディングでのリックやクリフによる虐殺を納得させるには不十分だったと思います。この作品だけみれば、彼らはチャールズという絶対的教祖に従う無知で純粋な若者であり、あのように虐殺するに値する人間達だったのか、という疑問が拭えないんですよ。まぁ、やり過ぎなんじゃない!?可哀そうじゃん!となる訳で。もちろん、史実をしていたらそうは思いませんし、自業自得じゃ!となる訳ですが、劇中の描写だけではそうは思えないんです。もっと彼らの残虐性や悪行を描写すべきだったと思います。史実でも、シャロン殺しの前に残虐の犯罪をしているようですし、そういうシーンを入れるべきだった。観客任せにするのは頂けない。

映画の再現シーンなんてすっ飛ばしてこっちにもっと力入れてよ~。じゃないと観客置いてけぼりよ~!

 

 

というか、史実と架空の物語を交錯させるのって難しいですね。バランス良くしないと今作のようにちぐはぐになってしまう。

その点、同じ歴史改変ものであるイングロリアス・バスターズはバランスが良かったと思います。それは恐らく歴史の題材の知名度の違いだと思います。ナチスを知らない者はほぼいないでしょうし、その残虐性は言わずもがなという認識の人が大半でしょう。ですから、エンディングを始めとする悪役に対する徹底的な残虐行為も容認出来た訳です。

一方、今作はナチス程の知名度はありません。そういう一般的に知名度の低い史実であることをもっと制作陣には自覚して欲しかった。そうすれば、もっと丁寧に史実を描写して観客との認識のギャップを埋められたと思うんですよね。その点が非常に残念です。

 

 

③総評

観れば観るほど、そして史実を知れば知るほど面白みを感じる作品なので、嫌いではないですし、恐らく見続けたら癖になって好きになる映画だと思います。ですが、あまりにも観客の知識に頼った作りであることが非常に残念だなと。これは賛否両論で好みの問題なのでしょうが、私はその点は好きではありませんでした。個々の演出は秀逸なだけに残念です!

 

 

これを機に敬遠していたイングロリアス・バスターズを再鑑賞しようと思います。今作との比較も面白そうですしね!